これまでもスティーブ・マックウィーン監督注目を集めてきたが、本作は、疑いの余地なく、彼のベスト作品であろう。最新作「それでも夜は明ける」。重ねて言う。間違いなく、本作は、今日まで発表された数多くの素晴らしいマックウィーン作品の中でも、飛び抜けて目を見張るものがある。
彼の下に集った俳優陣は、今回もタフで光り輝いている。それぞれの人物を通して事実を語り、私たちの前に、声に詰まる真実を示して見せてくれる。監督の右腕として、これまでも多くの作品で活躍してきたマイケル・ファスベンダー、主演男優のキウェテル・イジョフォー、そして、サラ・ポールソンに、ブラッド・ピット(彼は本作のプロデュースも担当している)。
マックウィーンは、ルピタ・ニョンゴ にスクリーンデビューの機会を与え、彼女は、その監督の期待に見事に答えて見せた。彼女をスクリーンで見る事もこれからは、多くなることだろう。
行き過ぎない脚本の構成が非常によかった。撮影技術は、美しく惹きつけられるものがあったし、違和感というものがなかった。編集、音響、そして音楽が、この完璧な映画を作り上げたように思える。
古い撮影方法が見事に、効果的にストリートを物語っていたシーンもある。例えば、長く、音の無い、吐き気を催す様なあのシーン。キウェテル・
イジョフォー演じるソロモンが絞首刑になる場面。特殊効果無しに、あれ程までにリアルなシーンを作り上げたマックウィーンチームには脱帽である。
本作で注目すべきは、奴隷制度を題材にした作品として高い評価を受けながら、ショッキングなシーンを極限まで抑えて表現している点である。
それでも、やはり、我々の胸は痛くなるのである。例えば、白人のアメリカ人が長い海外生活の後に、只今現在のニューヨークに住み、それがど
んなものかを噛みしめる。つまりは、「長く、不公平な差別を受けた後にどのように感じるか」ということである。これが、本作の意図する事である
。
そして、我々にとって、本当に大切なことは、人種差別撤廃の為に何が成され、成されてきたかを考えることである。
この2年で、私が奴隷について考えさせられた最も印象的な作品の一つだと思う。
映画の力とその重要性、もっと言えばそれは現代社会における芸術の力ということにもなるのだろう。
そういったものに、私は、改めて強い可能性を感じるのである。
FILM REVIEW by Lorenzo Pozzan, New York
TRANSLATION by Hiroya Matsumoto, New York