父と息子 :アカデミー賞ノミネート作品 “ジャッジ (“The Judge” in Japanese)

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本作を観る為に映画館に足を運ぶべきだろうか。何だか安っぽい出来栄えだし、ありがちなストーリーだし。自宅でゆったりと観たって同じことではないか。いや、そんなことはない。稀代の名優が主演、助演を務め、彼らの圧巻のパフォーマンスを目の前に、心踊り、胸打たれない観客はいないだろう。

ロバート・ダウニー・ジュニア演じるヘンリー・ハンク・パルマーは、シカゴを拠点に活躍する、少しその性格に難ありの弁護士である。ある日、母がこの世を去り、故郷に戻った彼を待ち受けていたのは、もう何年も疎遠になっていた父親(ロバート・デュヴァル)である。父の人生は、そう長くはないと知った時、彼らの希薄な関係は益々、ひどくなっていく。その父がある晩、車で誰かを轢き逃げし、殺人容疑の身となった時、彼らの希薄な関係は益々、ひどくなっていく。

しばらくして、ハンクは、父との奇妙な関係に思いを巡らせている自分に気付くのだ。そして彼は、今、それまで想像もしなかったが、父の傍に付き添っているのだ。ハンクは、現在ある老人の無罪を勝ち取る為に必死である。その老人、偶然にもその町の判事であった。

ダウニーは、我らが誇るアメリカ映画界の素晴らしき俳優の一人である。「アイアンマン」や、その他多くのエンターテイメント作品同様、本作でも、彼の圧巻のパフォーマンスに我々は、またもや胸熱くすることだろう。父の前では、何かにつけてイライラし、娘の前では、最高の父親で、元彼女の前では、一人の男として、変な事も考えたりする。因みに、その彼女、レストランを経営するやり手の女性でもある。ダウニーの演技術は、開いた口がふさがらない程素晴らしい。

これは、間違いなくダウニーの映画である。デュヴァルがその卓越した力で演じきった父親役も本作の見どころの一つである。気が短く、タフで、正義感が強く、誰でも何にでもどんな時でも判決を下してしまう、一風変わった父親。デュヴァルのカラダは次第に、言うことが聞かず、赤ん坊の様に、誰かの助けなしには生きることは出来ない。ダウニー演じる、息子ハンクが初めて父の悲惨な姿を目にするとき、私たちの胸は、これ以上ない程に締め付けられることだろう。

デュヴァルのその熟練した演技術で、ジョセフ・パルマは、まるで実在の人物の様に思えた。ヴェラ・ファーミガは、ハンクの官能的な愛人役を、ヴィンセント・ドノフリオ、ジェレミー・ストロングは、ハンクの兄弟役を、ビリー・ボブ・ソーントンは、感情を押さえた演技で、検察官を、最年少キャスト、エマ・トレンブレイは、ハンクの娘役ローレンを演じた(彼女と父との再会のシーンは、たまらなく美しかった)。

 

全ての俳優陣の、その卓越した演技力に賞賛の声が寄せられることだろう。つまらないと感じた時もあった。監督、デヴィッド・ドブキンが、後半につけたしたシーンは、特に大き

な意味を持つとは思えない。しかし、俳優陣のパフォーマンスという点においては、一点の曇りなく「素晴らしい」と言いきれる。

映画に内容と、素晴らしい演技を期待されるのなら、本作を観る為、劇場に足を運ぶべきだと私は思う。

TheJudge

オリジナルレビュー : スチュアート・R・ブライニアン (FILM REVIEW by Stuart R. Brynien, New York)

翻訳 :  今井裕也 (TRANSLATION by Hiroya Imai, New York)